第8章 『狡猾』 ※R‐18
(天気、悪ぃな……)
騎乗し馬を走らせていた幸村は、
雲行きが怪しくなってきた空を見上げ帰路を急いでいた。
紐で一纏めにした花が手綱に括り付けられ振動により上下している
”一緒に行っちゃ駄目?“
不安げに袖の裾をつまむ桜子を思い返していた
(疲れた顔してたな………)
手習いだのなんだので忙しいせいか最近はたまに同じ褥に入っても横になった途端すぐ眠りに落ちていた。
ーーー佳世に控えるように頼むとするか。
桜子は何も出来なくたっていーんだ。
ただ傍に居てあの跳ねっ返りをずっと愛でていたい。
(………やべぇ。早く会いてー)
早く帰ってこの手で抱きたい。
早く…………
刹那、
「…………!」
斜め後ろ、
上部の木の葉が揺れる音と共に
飛び込んでくる気配
視線をやると小刀を振りかざした男が眼前に迫り来ていた
「っ!」
即座に鞘から刀を抜き捌くと
馬の前方に男が着地した
「………………」
言葉を、失った。
服装や髪型が異なるだけで、
全く同じ顔のーーー
……………………………………………
「どーも。……ご先祖様」
細く白い筒を咥えた男は
ニイ、と歯を見せた
「………は?意味分かんねー。てめぇいきなりどういうつもりだよ」
「分からなくて結構。別にどうでもいいしな」
幸村は刀を構えたが、
この異様な状況を理解出来ずにいた
鏡を見てるかのような感覚に陥る。
口元は口角を上げているが、
目が笑っていない。
殺気がビシビシと伝わってくる
(こいつは、一体…………)