第8章 『狡猾』 ※R‐18
戦国時代に来て間もない頃ーーー
幸と最初に出掛けた先の城下で
最初に貰った贈り物
売り場では“似合わないからやめとけ”なんてからかった癖に
後になって
私が知らない間にこっそり買ってきてくれた
その照れた顔がとても愛おしくてーーー
かすんだ霧が晴れ、
温かい記憶が次々と溢れ出す。
祭りで鼻緒が切れた私を背負ってくれようとした姿
『乗れ』
結ばれた際の表情
『好きだ。……多分、出会った時から』
他にもたくさん……………数え切れない幸との睦まじい軌跡
『そーいうとこ、可愛い』
『落ち込んでんじゃねーよ、馬ー鹿』
『大事にする。……一生』
『桜子、愛してる』
幸!!
「………じゃ、ない」
喉が震える。
「邪魔じゃ、ない…………っ」
光太郎を押し退け、
髪飾りを拾うと開かれた合わせを急いで閉めるように握り締めた。
「幸は、邪魔じゃない!…………必要なの」
「…………お前まだそんなこと言って………」
「幸じゃないと駄目なの!」
幸じゃないと。
私は幸だけ。
……………逃避しちゃいけない。
現実を、見るの
幸を愛してる現実を
涙をこぼし俯いていると、
カチカチと石を打つ音がした
「…………ふーん、随分懐柔されてんだな」
煙草の煙を吐き、冷めた眼をこちらに向けた光太郎はまるで別人のようだった
「懐柔……って、そんなんじゃなくて私は……」
「そんな糞みてぇな関係、ちょっとつつけば簡単に壊れる。……………証明してやろうか」
スッと立ち上がる
「……な……証明って……何する気……!?」
「確か、今日視察から帰ってくるんだったよな」
何…………?
どうしてそんなに細かい事まで知ってるの…………!?
光太郎は、一体ーーー
「挨拶に行ってくる」
そう口元に弧を描き
膝を軽く屈伸させると、爪先で地面を蹴り一気に駆け出した
…………………
待って
待って
「…………待って!!!」
桜子の叫び声に
遠ざかる背中は振り返る事は無かった