第8章 『狡猾』 ※R‐18
…………………
「………でも、もう未練は無いって………」
「嘘に決まってんだろ!」
上体を離し二の腕を掴まれる
「結婚するって告げられた時………嘘ついてでも平気な振りしなきゃ自分を保てなかった。………俺が好きなのは桜子だけだ、ずっと」
…………………
そう吐露する彼の声は掠れていてーーー
見たことの無いほど悲壮な表情だった
「俺ならこんな苦労させない。……………現代に帰れば家族も友達もいる。店や娯楽や病院だって…他にもなんでも揃ってる。…………俺ならなんの不自由もなくお前を幸せにしてやれる」
桜子の顎からは伝い流れる涙が滴り、
目の前の相手をただただ見つめていた
ーーーなにもかも、元通りになれば楽になれるのかな
戦を待っている間の心配も
特有のしきたりも教養も無く
元の暮らしに戻れば、なにもかもーーー
光太郎は桜子をゆっくりと後方に倒し、
涙をそっと拭いてやると
唇を重ねた