第8章 『狡猾』 ※R‐18
「………おい、なんだこの荷物は」
視察から帰りの道中ーーー
従者に引かれた馬が運ぶ大量の荷を見やり、謙信が呆れ顔で問う
「あいつがやたら要求するからっすよ。ったく食い意地張りやがって」
馬を幸村の横に付けた佐助が
すかさず茶々を入れる
「なんだかんだ頼まれた土産全部買ったんだね、幸。優しーい」
「うっせー!しゃーねーだろ。あいつは色気より食い気だからな」
「………とかなんとか言っちゃって。今夜は幸の部屋に近付かないから。妖しい声とか物音聞きたくないし」
「………佐助てめー……………、……」
山道の脇、
桃色の花の群れが鮮やかに視界に入る
(……………)
手綱をグッと握って腰を張り、馬の動きを止めた。
「皆、先に行っててくれねーか」
「どうした、あと少しで城に到着するというのに」
「ちょっと野暮用で」
「……まぁいい。おい佐助、行くぞ」
頷く佐助と共に、一行が遠くに消えていくのを見届けると、
幸村は馬から降り脇道に進み、草の上で屈む
「……………」
(なんの種類の花かは知らねーが……)
キョロキョロともう一度周りを確かめると、
花に手をかけた
ーーーあいつはああ見えて女らしいものが好きだ。
こんなもん、女にやった事は無いが
あいつになら、と思った
きっと笑顔で受け取るんだろう
「……しっかし……男が花なんか摘んでるなんて大恥だな……」
顔を赤らめボソリと呟くと手早く花の茎を抜いていった