第8章 『狡猾』 ※R‐18
「え…………」
屈託の無い笑みを浮かべる彼ーーー
「攫うって………どういう事?そもそもなんで私がここに居るって知ってるの?なんで侵入できたの?」
「さぁ。なんでかなー」
「真面目に答えてよ」
とぼける様子にピシャリと言い放つと、
光太郎は私に手を差し伸べた
「桜子のことなら何でも知ってる。今も、昔も。……………来い」
出された手に躊躇する。
ーーーもうすぐ幸が帰ってくる
だから
行ってはならない。
分かってる、分かってるけど
………………………………
涙で濡れた頬が風に当たって冷たい。
きっと、私は疲れてるんだ
とても疲れてて……………
誰かに寄り添いたくなる。
逃げたくなる。
“せめて、もう一度会えたら”
先程一瞬よぎった気持ちが頭の中でうねる
「…………………」
私は、
その手を
取ってしまった