第8章 『狡猾』 ※R‐18
ガタン!
ゴトッ…………
文机をひっくり返し、
弾みで墨汁が畳に散る
「うるさいなぁっ………もう、嫌だ!幸だってやらなくていいって言ってたもん!もうやめる……っ」
はぁはぁと肩を揺らし荒い呼吸を繰り返していると、
佳世は表情ひとつ変えずに桜子を見据えた
「これで満足ですか?」
「……………」
「暴れてわめき散らして……進歩の無い方ですね、貴女は」
「だって私はっ………」
「貴女がこんな調子だと幸村様の面目が立ちません。あの方は其処らの庶民とは違うんですからね?教養のある正室でなければ。…………………貴女の代わりなんていくらでも居るのよ」
………………
桜子が絶句していると、
佳世が正座をしたまま襖を開けた
「今日は中断しましょう。汚したお部屋の掃除をしますから一旦出ていって下さい」
「……………」
唇を噛むと、勢いよく廊下に飛び出した。
「………外まで筒抜けだぞ。幸が居なくてよかったな」
こぼれた墨を拭く佳世を、襖に寄りかかり腕組みした信玄が見下ろしていた
「あら、幸村様に聞かれたとしても一向に構いませんよ?……………活を入れるぐらいしないと。将来、恥をかくのはあの子ですから」
「相変わらず手厳しい、な」
「嫌われ役は慣れてますから」
ふ、と笑うと再び畳を拭き始めた