第8章 『狡猾』 ※R‐18
「コウ。あんた、あんなに笑う男だったんだ。初めて知った」
そう木陰から現れた小柄な女がゆったりと近寄る。
光太郎の眼球がギロリとそちらに動く
「………盗み見してんじゃねぇ。殺すぞ」
「ふふ、怖〜い。そうでなくっちゃ」
女は懐から一枚の紙切れを取るとそれを差し出した
「まったく、個人的な用で人を使うのよしてよね。…………だけどあの女、とんでもない奴等の元にいるみたいね」
「………………」
書かれてある内容を黙読すると、
グシャ、と握り潰し
煙草の先端を押し付けた
「見て来たわよ、真田幸村。双子みたいにソックリだったから魅入っちゃったわ」
女が光太郎の身体にしなだれる。
「………どうでもいい」
ちりちりと燃え広がり面積が小さくなっていく紙が血走った眼に映る
「ねぇ、コウ。あの女とどういう関係?」
「てめえには関係無ぇ」
女を払うと、草鞋の紐を締め直し
立ち上がった
「……また用があれば連絡する。」
一言残すと、背後から文句を浴びせてくる女を無視し
走り去る
形を失った紙切れの燃えカスが、風に吹かれて舞っていった