第8章 『狡猾』 ※R‐18
幸が視察に出発してから数日が経過していた。
…………もうすぐ帰ってくる予定だ
性懲りも無く連日に渡り光太郎に会いに行っている私は潮時を感じていた
「あ、これ俺等が付き合い始めた頃に流行ってた曲だ」
「そうだね!よく聴いてたなー」
イヤホンを二人で片方ずつ耳につけ瞳を閉じる。
あれは確か高校一年の春だ
「入学早々での自己紹介で物まねショーやるなんて後にも先にも桜子ぐらいだよな」
くく、と喉を鳴らす
「いーじゃん、ウケてたんだから」
口を尖らせていると
光太郎の手が私の膨れ面に添えられる
「そういうとこも、好きだった」
穏やかに目を細めるその表情に
つい紅潮してしまう。
「そんな桜子が結婚、か。なぁ、相手の男ってどんな奴?」
「ん………と……頭堅いし、女心が全然理解できてない発言とかするけど………ほんとはとっても優しい人なの。激しく照れ屋だし」
「へぇ……」
ふふっ、と朗笑する桜子から手を下ろすと
草の上にゴロンと横になり首の後ろで指を組んだ。
「………そういえばさ、俺のご先祖様には会った事あんの?」
「えっ…」
鼓動が大きく暴れる
「近くの城に住んでるって町の奴等が言ってた。どうやら俺にすげぇ似てるらしいからここら辺では顔を隠して生活してんだけどさ。堂々と面晒したらパニック起きるだろ、きっと」
「…そ…そっか……でも、私は会った事無い…かな。」
「…ふーん。あー、一回でいいからお目に掛かりてぇなー。今度城下町で一緒に待ち伏せしてみるか」
「……………」
(やっぱりもう、潮時だ。もう、これ以上は……)