第8章 『狡猾』 ※R‐18
「どうです、改築後の出来栄えは」
「……まずまず、といったところだ」
支城・直峰城ーーー
内部はもちろん曲輪や土塁など所々をより強固なものにする為、一部改築するにあたり
春日山城にとって戦略上重要な位置にあるこの城の視察に訪れていた謙信等一行は、配下である城主によって手厚くもてなされていた。
「ささ、食事や酒をご用意しております。娘に酌をして回らせますのでどうぞごゆるりと」
歓迎の宴が催され、気品を漂わせた城主の娘が
それぞれの席で酒を注ぐ。
「どうです真田様、我が娘は。年頃も近いですし、是非とも正室候補に如何でしょう」
「いや、もう決まった奴が居るからいらねぇ」
幸村は即答すると猪口をグイ、と口に傾けた
「なんと……。では、せめて側室にでも」
「それも必要ねぇ。………うわっ!」
女中の一人が転んでしまい持っていた盆から副菜が入った器を落とし、幸村の腿にかかる
「も、申し訳ございません!」
「別にいーって。お前大丈夫か?」
倒れている女中を起こすと、女は幸村の顔をじっと見つめていた
「……はい。ありがとうございます……」
「おい、お前!なんて無礼な!」
「まぁまぁ、大した事無ぇから見逃してやれよ」
「は、はぁ…」
城主が憤慨するのを収めた幸村に礼をすると女中はサッと広間から出ていった
「しかし真田様が側室も取らず正室だけに搾られるとは……さぞお美しい方なんでしょうね」
「………まぁ」
目線を逸らせてそう返事すると隣の佐助が肘でツンツンと突いて無表情で冷やかしてくる。
「また照れてる。帰ったら本人に伝言しておくよ。喜ぶだろうから」
「佐助てめぇ…………っつーか謙信様はどこだよ、いつの間にかいねーじゃねーか」
「恐らくどこかで一人酒してると思うけど」
「ったく春日山城主だってのに……」
ワイワイと騒がしくなりつつある広間の外で
壁に背を付け、中の様子を聞いていた女中はクスリと笑むと足早にその場を後にした