第8章 『狡猾』 ※R‐18
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足が着かない。
波に………呑まれる
『…………!、…………!』
友人の叫びが遠くから聴こえる………
口や鼻から水が入って息が、出来ない
海面に顔を出すも打ち付ける雨と風にさらされて
意識が朦朧とする
このまま、俺は終わるんだろうか
脳裏に浮かぶのは、長い髪のーーー
(……死ねない、死にたくない!)
空に向かって手の平を掲げた瞬間、落雷と光に包まれると共に
最愛の女の声だけがよぎった
“光太郎……”
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「光太郎?」
「…………………!」
ハッと目が覚める。
すぐそこには、覗き込む桜子がいた
「わっ……!?」
驚いたと同時に太い枝から滑り落ちたが、
辛くも受け身を取り木の下に着地した。
「あっ……ぶねぇな!ビックリさせんなよお前」
「あはっ、ごめーん。」
桜子はするすると木の幹を下へ伝い光太郎の元へ降りた
「でもさー、普通木の上で寝る?自然児じゃあるまいし」
「まぁ半分そんなもんだ。生き延びる為に身についた。この時代に来たばかりの時は住む所も無かったしな……………しかも…………二年間も自分の名前以外、記憶飛んでた」
懐から出した石を打ち、煙草に火を付ける
「やっと全部思い出したのが一年前だ」
「………そう…なんだ」
(壮絶だったんだろうな……こんな知らない場所で記憶も無くなって………)
「…………あ」
ふいに煙草を地面に擦り付けた
「悪いな。桜子は煙草の煙、嫌いだったよな」
「………」
(覚えて、るんだ………)