第8章 『狡猾』 ※R‐18
「ねぇ、光太郎は今何の仕事してるの?」
「………んー、……フリーター。」
「はー?なにそれっ」
「その日によって違うからなぁ。色んな所で変な物売りつけたり」
「うわっ、迷惑極まりないねー」
浜辺を歩きながら他愛もない談笑をしていたが、
日が暮れてきた空を見てギクリとする。
(しまった………志乃にお団子頼んだままだ……おまけに夕餉に遅れちゃう!)
「ごめんっ、私もう帰らなきゃ!」
「ああ、もう夕方だもんなぁ。……あのさ、さっきスマホ持ってきてるって言ってたよな」
「うん……?」
「友達みんなが映った動画とかあんだろ?今度見たいんだ。ついでに音楽も聴きてぇ。ここはなーんも無ぇからな………どうせ二ヶ月後には帰れるんだけどさ」
(そっか…………いきなりこんな時代に飛ばされてきてずっと一人だったんだもんね……娯楽だって限られてる)
いずれ光太郎は現代に帰る。
幸もいないし、
それまでの間、少しくらい会ったって
いい……………よね……………?
……………………………
ーーーそんな狡い考えが支配する
「分かった!明日持ってくるよ」
「ありがとな。この前会った場所で待ってる。………んじゃまたな、人妻!旦那によろしく」
「まだギリギリ独身だもーん。じゃね!」
手を振って去っていく桜子を笑顔で見送っていた光太郎は、その姿が見えなくなると
口角をゆるやかに下げた
「……………どこの馬の骨だ?」
鋭く眼を光らせると、
一瞬にして木々の闇へと身をくらませた