第8章 『狡猾』 ※R‐18
ドクン、と射抜かれたように胸の中心が鳴った
「……………」
(……言わなきゃ……ちゃんと、言わなきゃ)
「なぁ…」
続けられる言葉に歯止めをかけるように、
彼の手を肩から外した
「私、結婚するの」
光太郎の瞳が大きく見開いた
「……ここで知り合った人と結婚することに、なったの……一緒には、帰れない………」
喉が震える。
あんなに大好きで、
一度は将来を約束したこの人に
私はーーー
「だから、もう会……」
「なんだ、心配して損した」
そう言うと光太郎は傍に置いていた編笠を被り、立ち上がるとこちらを見て笑った
「えっ……」
「お前のことだから、まーだ俺に未練があんじゃないかと思ってさ。だったらまた一緒に居てやっても良いかな〜なんて。ほら、あんな別れ方だったし責任感じてた訳よ」
「………な……」
「ははっ、結婚宣言するとき超緊張してやんの。気ぃ遣い過ぎ。こないだ勢い余ってキスしたせいか?スマンスマン」
あっけらかんとそう語る様子に拍子抜けした。
(え?え!?なにこの展開……あれだけ思いつめた私の想いは一体……)
「だってもう三年も経ってんだしそりゃ新しい男ぐらい見つけてるだろ、普通。それに俺だってそこそこモテんだからなー。女の一人や二人いるって。引く手数多だっつの」
フン、と鼻を鳴らして自慢げに言うもんだからつい笑ってしまう
「あはっ、元は軽かったもんね〜復活したんだ」
「うるせーなあ。……まぁ、否めねぇけど」
ーーーそうだよ。
光太郎はいつもサッパリしてて冷静に物事を整理できる人だから、
執念深く負の感情を引きずらないの。
正直ちょっと淋しいけど……
お互い、前に進んでたんだね。
これで、良かったんだよ。