第8章 『狡猾』 ※R‐18
しかし店舗の脇から、
着物らしき布がひらひらと見えた
おおかた、どこかの躾がなってない子供の悪戯だろう。
(よし、お姉さんが説教してやろう。佳世さんばりに)
桜子はすくっと立ち上がるとずんずん歩いて行き、店舗の仕切りから向こう側へ顔を覗かせた
ーーー途端
「うぐっ……!?」
後ろから口を覆われ、
身体を抱え込まれるとズルズルと引き摺られる
(誰……!?)
何、
何!?
賑やかな町並みが遠のいていく。
ーーー私、攫われてる!?
尋常ではない速さで裏の林まで連れられていく中、桜子は拳を握り上半身を捻った
(離せこの………っ!)
捻った身を勢い良く戻し肘打ちを繰り出すと、
後ろから抱える相手の手が離れ、地面に倒れる音が聞こえた
「いっ………てぇ〜!」
腹を押さえうずくまる男。
(……この声……)
「変わってねぇなぁ、効いたわ」
男はニッと歯を見せ、被っていた編笠を指で持ち上げた
「よっ」
「光太郎………!」
腹をさすり、ゆっくり腰を上げ衣の汚れを払うと光太郎は桜子を素早く横抱きにした
「ちょっ……なに……!?」
「やっと見つけた」
そう笑い見下ろすと、
脚にグッと力を込め駆け出す
「えっ……!待っ……」
光太郎の走りが自分に振動し、
どんどん周囲の景色が流れていく。
(速い!!)
「ねぇっ、なんなの!?なにするつもり!?」
「んー、そぅだなぁ………久し振りにデートするか」
「は!?待って、待ってってば………!」
桜子の抗議も虚しく、
地を蹴る足音は止む事は無く林の彼方へと消えていった