第8章 『狡猾』 ※R‐18
「ーーーはい、本日はここまでです。」
「ありがとうございました…」
佳世が自室から出て行くと同時に、深々とお辞儀をしていた状態から一気に畳の上に倒れ込んだ。
「はぁぁぁ……今日も頑張ったぁ〜……」
体の感覚で習得するものと違って、頭も使うものはやっぱり簡単にはいかない。
現代で習った漢字とは少し違うーーー旧漢字というやつを新たに覚えなければならなかった。
その上崩し文字だ。
(何故に崩す必要があんのかね………)
「あー…頭、痛ぁい……」
本当に疲れた……
そうだ。
甘味でも買いに行って、信玄様と食べよう。
そして癒されよう。
セクハラされない程度に。
寝不足でズキズキと痛む額を押さえ起き上がると巾着を手に取った
「桜子さん、いらっしゃい」
「志乃ー!」
城下町、
甘味処で前掛けをした志乃にがばぁと抱き付く
「暫くですね、来てくれるの」
(この柔らかい微笑み……癒される………っ)
「聞いてよ〜…私ね、鬼婆に拷問されてんの。………あ、その前にお団子二人前包んでくれる?積もる話はそれからたっぷりするから」
「はい、毎度」
くすくすと笑いながら袖で口元を隠し店の奥へ行く志乃を見送ると腰掛にドカッと座った
(はぁー足を開いて座るってやっぱ楽だなぁー。……天気も良いし、外に出てきて良かった………)
瞼を伏せて心地よい空気に微睡んでいると
後頭部にコン、と何かが当たった
「………?」
足元にころころと小さな物体が転がってくる。
「どんぐり…?」
スコココン。
「なっ……?」
相次いでぶつけられ、背後を睨むが誰も居ない。