第8章 『狡猾』 ※R‐18
ーーー光太郎が、生きていた。
何故、助かったのか
いつ、どうやってこの時代に来たのか
今までどうやって過ごしてきたのか
……………問いたい事は山ほどある。
でも
もう会ってはいけない気がした
だって
私には
「入るぞ」
私が返事するよりも早く、幸がズカズカと部屋に入ってきて隣に座った
「まーた佳世に説教喰らってたんだってな」
「……………」
「しかも逃亡したんだって?」
「……………」
(幸の目、見れない…)
俯いていると、
鼻の頭にベチャ、と何かをつけられる
「なっ!?」
「落ち込んでんじゃねーよ、馬ー鹿」
思わず顔を上げると、あんこがたっぷり乗った団子を差し出して幸が笑っていた
「甘いもんでも食え。これ、好きだろ」
鼻に付けられたあんこを拭って
それを受け取った
わざわざ買ってきてくれたのだろう。
ーーー私を励ます為に
「…………なぁ、もう習い事なんてやめてもいーんだぞ」
「え……」
「そんなこと出来なくてもいーから。なんか顔色悪ぃし」
「……ありがと、でも大丈夫。……」
「………あんま無理すんなよ?…あ…そうそう。祝言、年明けになるわ」
ハッとした。
(そうだよ……私は幸と結婚するんだから)
「年が明けて色々片付け終わったら、上田城に帰るつもりだからそこで一緒に暮らそう。景色が綺麗なところで空気も、………」
嬉しそうに語り続ける幸を見てると
他の男にキスを許してしまったことに良心の呵責を感じる
”もう、光太郎には会わない“
もし、また偶然会ってしまったらその時はそうはっきり伝えよう
幸の話に笑顔で相槌を打つ。
私は今、上手く笑えているだろうか