第3章 『面影』
雨上がりの空は青く、太陽の日差しが暖かい。
いつもは兵達が鍛練している外にある広い敷地。
赤いハイカットスニーカーの爪先をトントン、と地面に叩くと桜子は幸村と向かい合わせになるように立った。
「天女、頑張るんだよ~」
「桜子さん!幸ならたぶん安心だけど無理しちゃ駄目だよ!?」
「やはりこの俺が出るべきでは」
三者三様にそう見守る中、
「よろしくお願いします」と礼をした桜子は竹刀をグッと握り締めた。
ポニーテールに結った髪が風に揺れる。
(…………女相手に本気でやる訳にはいかねぇ。様子を見ながら軽く打ち合って適当なところで終わらせればいい。)
「………………いくぞ」
ガッ!!
幸村が踏み出し、繰り出した最初の一撃を桜子が受け止め竹刀が交差する。
それを捌いた流れで幸村が振った次の攻撃を余裕綽々でかわした桜子は、すかさず一手を出す。
「!」
幸村の胴を竹刀が掠める。
(速ぇ!!!)
攻めの体勢に転じて放った次の手も、その次の手も全て桜子に止められる。
「…………………っ」
(………コイツ、隙が無ぇ…………!!)
幸村も桜子の攻撃を止め続ける。
(少しでも気が緩んだら、やられる!!!)
カッと目を見開き、思いきり打ち掛かって行った。
「……………幸、本気だ…………」
佐助は前のめりで手に汗を握っていた。
始めてからどのくらい時間が経ったのか。
打ち合いが延々と続き、お互い一歩も引かない状態だ。
「あの小娘、打つ速さはおろか足捌きやら身のこなしまで良い動きをしている」
謙信がそう感嘆していると、隣にいる信玄の口が弧を描いた。
「確かに天女は強い。そんじょそこらの男じゃあの子には敵わないだろうな。だが………………」
ザザザザザザッ!!!
スニーカーの底が地面に擦れる。
「この勝負、幸の勝ちだ」
一本の竹刀が宙を舞った。