第8章 『狡猾』 ※R‐18
『今日で捜索打ち切り………!?』
『………ええ。どこを探しても見つからないらしいの……一緒にいた友達等も沖に流されたウチの光太郎を見たのが最期みたいで………あんな悪天候だったもの。………もう、きっと……』
『なんで!?なんでまだ見つからないのに打ち切りなの!?おばさん、なんとかならないのっ………!?』
『……………もう……駄目なの…………』
『嫌…………』
『桜子ちゃん、光太郎のこと、今までありがとうね…………』
『嫌ああああああ!!!』
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「…………光太郎、どうして…………」
今この目で見ている光景は本当に現実なのだろうか
「…………」
ストン、と軽い身のこなしで木の下に降り立つその人物
沙綾形柄の小袖に、手甲や脚絆を身に着け
無造作に少し伸びた髪
服装や髪型は変われども、
穏やかな雰囲気が漂う表情はあの頃のままだ。
「…………桜子、お前………本当に桜子か………?」
一歩、また一歩とこちらに近付く
「………光太郎、そっちこそ、本物………なの………?」
すぐ目の前までくると、
私の頬や髪をペタペタと触り、
至近距離で凝視している
その瞳が、潤んでいた
「……………っ!」
素早く掻き抱かれ
背中に回された手には力が込もり
その肩は小刻みに震えていた
「………っ嘘だろ………」
「…………光太郎、生きて……たの?なんで、ここに………んっ…」
唇を塞がれる
何度も、何度も
ーーー私はこの感触を知っている。
口から離れると、目尻に涙が滲んだ光太郎の顔があった
「もう、会えないかと思ってた」