第8章 『狡猾』 ※R‐18
「なんですかその歩き方はっ!」
ビクッと桜子の体が跳ねる。
「男じゃないんですからそのようなダラダラ大股で歩くのはお辞めなさい!」
「いや〜、自然とこうなっちゃって………」
「それがお嫁にいく女性のすることですか。もう一回あちらからキチンと歩いてきなさい」
「………はい」
礼法、歌学、茶道、書道、芸事などーーー
姫としての嗜みは様々あり、
毎日みっちりと教え込まれている最中だ。
兎にも角にも、檄が飛ぶ。
しかも強面の佳世さんから。
「背筋はちゃんと伸ばしなさい!そんな猫背の正座がありますか!」
「いってぇ!」
背中をパシッと叩かれる
礼法は家柄によるのだそうだが、まず初歩的なものにつまづいた。
歩き方や正座の仕方だ。
剣道と空手をやってきたのに、私は基本である正座が苦手なのだ。
(だって、胡座をかいた方が楽だし。)
芸事ではまず能を習ったが元々ダンスをやっていたせいか難無くこなせている。
ーーーあのゆったりとしたテンポはどうも性に合わないけど。
茶道も正座との闘いだが、
所作は少しずつ体に覚えさせればなんとかなる筈……
ーーー足が痺れてしばらくその場から退席できないけど。
問題は歌学と書道だ。
和歌をつくる以前に文字の読み書きが出来なければならない。
「昨日教えたところは復習しましたか?宿題は終わってますか?」
「………ほ、ほんのりと……」
タラリと汗が流れる。
まさか大人になってから宿題をやる羽目になるとは思ってなかった。
勉強は大嫌いだ。
高校の時なんてギリギリで進級してた。
そういう私にこんなミミズみたいなにょろにょろした文章を会得しろだなんて至難の業だと思う。
毎晩、眠い目をこすりながら文字の勉強と宿題。
……お陰で幸とは最近ほとんど一緒に寝ていない