第8章 『狡猾』 ※R‐18
「離せっつってんだろ!」
「やだっ!ちょっと話させてよ!」
「今は駄目だって!」
政務が行われている一室では、
外側から障子を開けようとする桜子と内側から閉めようとする幸村の攻防が繰り広げられていた
「いい加減にしろっ……て〜……」
「幸、開けてやれ」
引手に掛けた指に力を込めて防いでいる幸村の後ろに立つ信玄がにこ、と微笑む
「いっつもこいつに甘いんだよ、信玄様は!」
「いいから。ほら」
幸村をどかせ障子を開くと桜子が飛び付いてきた
「信玄様っ!なんで佳世さんに教育係なんか許したの!?やだよあんな恐いおばさん!」
「はは……確かに佳世は厳しいが信頼の置ける奴だ。悪いようにはしないさ」
「でもっ…」
「この時代で姫として嫁ぐ以上、習って損にはならんだろう。嫌になったらいつでもやめていい。な?」
「え〜……」
奥の方で書簡に目を通し我関せずといった様子の謙信をチラリと見る
「謙信様もなんとか言ってよ!習い事なんか始めたら私と手合わせ出来なくなっちゃうよ!?」
「………構わん。色惚けとやっても時間の無駄だ」
目線をこちらにやりもせず淡々と返答される。
(こないだの事、根に持ってる………!)
「そんなぁ〜……あ、ちょっと!」
がっくりと肩を落としていると、幸村に背中を押され廊下へと出された
「そーいう事だ。話は済んだからもういーだろ。いいか、次また政務の邪魔したら承知しねーからな」
そう睨み、ピシャリと障子を閉められてしまった。
「……………」
昨日の甘い雰囲気とは一転、私とは違い
幸はビジネスモードに切り換わっているようだ。
考えてみれば、私はここに来てから日々ぐうたら生活し過ぎていたのかもしれない。
それに、信玄様が言ってたことも一理ある。
(………よし、やってみるか!)
そう気合を入れた
のだが。