第3章 憎悪
先程来店した女性をカウンター横にある扉の先へ案内し、私は定位置へ戻った。
「女の人、放っといていいの?」
ピンクのその問いに私はチロリと時計を見やる。現在時刻は13時48分。
「ええ。あと十分したら様子を見に行きます」
閉店まで残り十分あまり。早く店を閉めたいこともあるけど。
この人早く帰ってくれないかな。
「ねぇ、もしかしてこれがみーこちゃんが言ってた、出来ること?」
「当たりです。トド松さんも何かありましたらいつでもどうぞ」
「今度お願いしようかな。あと、トッティって呼んで?」
数日前の赤同様、彼は終始笑顔を絶やさなかった。けれど、その笑顔は相手を和ますものでも欺くものでもない。
勝ち誇るような、強気な笑みだった。
まるで何かを確信したような。何か有益な情報を得たかのような。
自身に利益が生じた時の笑みだ。
おかしい。当たり障りのないやり取りしかしていないはず。"みいこ"と"道化師"を結びつけるものは何もない。何も収穫なんてないはずなのに、何故したり顔を?
よくわからないが、牽制だけはしておこう。
「今度来てくださればそうお呼びますね」
「トド松さん」
口を尖らせる彼は会計を手早く済ませ、そそくさと出ていった。
あっさり退出したため拍子抜けしたが、軽く店じまいをし件の彼女の元へと向かう。
奥の部屋は防音室になっていて聞き耳は意味を為さない。さらに窓はスリガラスになっているため覗き対策も抜群。
盗聴器を仕込まれない限り、中での様子は全くわからない。
それでも念には念を。
私はノートとボールペンを二本用意し、ドアノブに手をかけた。