第2章 邂逅
「本気ですよ。だって、僕に何のメリットも、ないじゃないですか」
あくまで笑みを絶やさず。気を抜かない。
「僕にとっては、ただの"ムチ"。"飴"もないのに、知らない人には付いていきませんよ」
ペットボトルを股に挟み、両手を背もたれにかけ、ほんの少し相手を煽る。
これで準備は整った。
「それもそうだよなぁ」
ケタケタと口元だけ笑う赤。目元はこちらを捉えたまま。凄まじい程殺気を醸し出す。
まさかここまで釣られてくれるとは、ね。
この辺りでさくっと退場しようかな。
「まったくです。だから」
足を勢いよく振り上げ、一回転。トランクルームへ着地すると同時に背後で物音がし、空気が流れる。
少しふらついたのはご愛嬌、ということで。
「お暇(いとま)しますね」
驚愕する彼らに手を振り、ペットボトルを回収し後方に跳ぶ。私と入れ替わるように、黒い塊が二筋流れ込んでいった。
『ったく、世話のかかる嬢ちゃんだ』
駆け出す私の傍らに、トランクを開けた張本人が毒吐く。いや、張本"犬"か。
「虎徹、ナイスタイミング。ついでに奴等は?」
再び水を流し込んでから放り投げる。
それから虎徹の太い頸にかかっている鞄を受け取りながらいつもの”私”の声に戻して訊ねる。
『どうやら来ないみてぇだ。カラスどもが上手くやってるらしいな』
彼らと別れる際入ってきた二羽を思い浮かべながら、そっか、と呟く。