第1章 壱 〜流転〜
嵐の如く去って行った水夫達をボーゼンと見送る恵果。暑い日差しを遮る木陰に、心地よい潮風。
ぼんやりと辺りを眺めていると ある瞬間、体温が下がると同時に脳内に一気に血が巡る。
恰幅の良い女性の手により、着物を始めとする衣類が全て干されていたのだ。
帯も襦袢も、足袋ソックスも、ーーーーもちろん下着も。
「っっっ?!ーーー待ってえええええええ‼︎‼︎」
大慌てで駆けつけ、恥ずかしさと申し訳無さでアワアワと狼狽えながら説明するも、言葉は通じず終い。
女性は、衣類が盗難にあい、それで慌てて見に来たのだと思い、恵果を宥めにかかる。
豪快に笑われて頭を撫でられ、まるで「もう少し待っていなさいね。」と言われた様に宥められただけだった。
『大丈夫よ。キチンと返してあげるから。1時間くらいで乾くかねぇ…それまでは待ってなお嬢さん!』
あっけらかんと何かを言われ、雰囲気で意図を呑み込もうと考えこむ。
親切心で行なってくれた事は分かっている。けれど、年頃の娘の身としては恥ずかしいことこの上ない。
「同性とはいえ…見ず知らずの方に洗濯物を洗って貰って…下着まで…もう死にたい…」
赤面を隠す様にテーブルに伏せていると、潮騒に混じって海鳥の声が遠く聞こえる。
走り回る子供達や、井戸端会議に興じるご婦人方…遠くに生活の香りを漂わせる街並み。
異世界とはいえ、人が暮らし、育み、生きている。あまりに変わらない日常だった。
緊張の糸が切れたのか、身体に疲労が蔓延したのかいつの間にか眠りに落ちていた。