第1章 壱 〜流転〜
己の視野の狭まりは、周りに情報を多くもたらせる事が多々ある。
オロオロと周りを見渡すくらいしか出来ない娘に、港の者は興味をいだいた。
絹の様な長い黒髪
陶器の様な白肌
花の様な小さな唇
大きな金の瞳
愛らしい整った顔立ち
濡れてはいるが、身なりの良い着物
絶世の美女とは言わないが、陶器人形の様であるのは間違いない。
『どうしたよ?綺麗なお嬢さん。水路にでも落ちたかい?タオルがいるだろ。』
『おっコイツは別嬪さんだ。何処行くんだ?俺が連れてってやるよ。』
ラテン男の性は異世界も相変わらずなのだろうか
無作法に近寄り、気軽に話しかけ、あわよくば体に触れようとする。
反射的に距離をとりつつ、様子を伺う。
そんな事は御構い無しな港の男衆は、口々に何かを言いはなつ。
けれど、言葉が分からない為答え様が無い。
何か答えなくては…そう思えば思う程に何も思い浮かばない。
「あ…あの…ここは何処ですか?」
必死に絞り出した言葉がこれだった。
まずは現状の把握。そして思考し行動を行う。これが恵果の定石だった。
ーーーーーけれど運命は思わぬ方向へと転がり始めるーーーーー
『なんだぁ?全然分からねぇ言葉だな』
『変わった服だな。東方から来た旅行者か?』
一人の男が投げた言葉が波紋となって広がっていった。
『コイツは…漂流者(ドリフターズ)なのかもしれんな』