第1章 壱 〜流転〜
圧倒的な水量が押し寄せる。その時、微かに高台へと飛び移る猫の姿が見えた。
ああ…よかった。無事でよかった…
そう認識した瞬間に、明るい場所に出た。
ひどく無機質で真白い回廊。そこに無数の扉ーーーその中心に事務員の様な男が座っている。
無表情に恵果を一瞥すると、ノートに何かを書き記している。
「え…?…何…ここは?」
何も分からない。
何かを問おうと男を見やるも、短く彼は
「次」
そう冷たく言い放つだけだった。
「え?…あ、あのーーーー」
もう一度問い掛けよう…そう考えた刹那、
ズルリと音を立てて闇を吐き出す扉。悲鳴をあげる間も無く、そのまま引きずり込まれる。
反射的に目を閉じ、不安が溢れない様に硬く硬く瞑る。
ぐるりと歪む次元。
柔らかいトンネルの様な所をくぐると世界は一変していた。
「ーーーっ…なに…?…暑い…」
恐る恐る目を開けると、異国の地が広がっていた
眩しく暑い日差し
湿気を含んだ海風
飛び交う人々の声
活気に湧き返る港
「ここ…は、何処なの…?」
ラテン語に似た言葉
ヒスパニック系等の人々
見知らぬ品々
そして何より…
『野郎ども!積荷は終えたか!?』
見上げれば、大声をあげる男が操る巨大な鳥が空を舞い飛んでいる。
「と…鳥?あんなに大きい…何なのココは…」
自分が知り得る場所とはあまりに違う世界
あまりの情報量に混乱を覚える。
頭が真っ白になる。少しずつ手足が冷えていく。ずぶ濡れな自分に気づき更に体が震える。
反対に心臓は早鐘を打ち、息苦しくなる。
どうしたら良いのだろう…
どうする事が最善なのだろうか…