第2章 弍〜商談〜
翌日、交渉という名の戦争を仕掛けにグ=ビンネンに足を踏み入れたサン・ジェルミ一行。
「まったく相手もブリガンテを場につけてくるなんて…和平交渉で序列第2の重鎮が来るとは思わなかったわ。」
革靴を鳴らしながら石畳の廊下を歩く稀代の錬金術師を、部下がなだめる様に言う
「連中も内実は和平をしたいという現れでしょうかねぇ」
その言葉に眉を潜め、工程とも否定とも取れる表情を浮かべる。
「とにかくこの和平が決まらなきゃ、策の基盤も次の作戦も立たない!気合い入れてかからないと…」
多くの資料と長い包みを持って会議室に勢いよく入っていった2人を見送ると、残された3名を見やる。
一人はサン・ジェルミの部下、一人はホーステールの綺麗な少年、そして眼帯をつけた髭面の中年男性…
彼方は交渉中なら恵果がする事はたったひとつーーーー歓待し、交渉を運びやすくする為のロビー活動だ。
来客に挨拶をする為、少し深く頭を垂れお辞儀をする。
「本日は遠方より、ようこそお越し下さいました。サン・ジェルミ様の交渉終了まで、此方でおくつろぎ下さい。」
その仕草を目敏く見抜く眼帯の中年男性。しげしげと眺めた後こう言い放つ。
「会釈にその顔立ち……お主…日ノ本の出か?名前は?」
「え……はい、名前は筑波恵果と申します。」
「ほー、あの常州の豪族か。」
名前を聞き、今度は少年が驚き声を上げる。
「筑波!?あの常陸国(ひたちのくに)の?!…じゃあ貴女はもしかして…金色姫なの?」
えらく古い地元の名と、伝説になった現人神の名を出され思わず笑ってしまう。
こんな異国で自分の一族が分かる者に出会えるなど思っても無い事だからだ。
「ふふふっ…私は金色姫の末裔です。それに豪族だったのは曽祖父までですよ…お客様のお名前をお伺いしても?」
フッと笑い、弓に触れながら話してくる。
「僕は与一。那須資隆与一です。」