第2章 弍〜商談〜
「詳しくですか…そうですね…その貴族はドリフなんですよ。」
「そういえばオルテの大貴族にドリフターズがいるという話でしたね。どんな方なんですか?」
恵果の質問に何とも難しそうな顔で考え込み、捻り出した答えは辛辣だった。
「煮ても焼いても食えないオカマですよ。」
「え…オカマ?……オカマさんですか…」
今度は恵果が考え込む始末。
「…………お名前を伺っても構いませんか?」
此方に漂流してくる者は皆、何かしらの偉人と魔術師達から聞いている。もしかしたら知っている可能性はある。
自分が偉人とは思えないのだが、後世の歴史を知る術を持たない以上、自己評価は出来ない。
「名前はサン・ジェルミです。」
シャイロックは事もなげに言うが、彼方の歴史を知っている者からしたら大事件である。
相手はほとんど御伽話の様な者であるからだ。
「サン・ジェルミ……サンジェルマン伯爵!?あの!?」
恵果の焦り方に興味が湧いたのか食いついて来た。
「ケイカさんの世界ではどんな人物だったんです?」
「私が生きていた時代から300年程昔の人物で、フランスという国いたとても博識な方と習いました。ただ…とても謎が多い方なんです。」
18世紀では知り得る事の無い知識や情報。いつまでたっても年を取らない身体。錬金術に手を染めて、遂に『賢者の石』を造り出したのだとか…
どれもこれもファンタジーの様な話だけれど史実として残っている。噂の域を出ないであろうが博学な科学者なのは間違いないだろう。
なるほど…と呟くシャイロックは、此方のサン・ジェルミの事を教えてくれる。
「彼は50年前、オルテ帝国の礎を築いた大貴族でね。戦争に参加もせずに好き勝手暮らしているそうだよ。」