第3章 溶けるのと溶けないの🚹※/尾浜/現パロ
勘右衛門に電話が掛かってきたとき、俺はソファに寝転がっていた。
勘右衛門はそのソファの肘掛けに尻を引っかけて、PHSに笑ってる。日は何時間かまえに沈んだまだ少し暑い夜、エアコンの風の音がする部屋。
この部屋にいるもう一人の人間を見上げようとすると、天井の照明が眩しい。
白く照らされるそのひとの頭部が遥か上空にでもあるようだった。
遥か成層圏から降りてくる相槌や笑いを耳に挟みながら俺はぼーっとした。
「勘右衛門」口のなかで呟いてみた。
俺の頭のうえ、ひじ掛けに引っ掛けられた勘右衛門の空いている手を両手で取り上げる。その白く繊細な手を弄んだ。そのとき手の持ち主は、俺の方をちらちらと見ていたように思う。
俺は、俄にその手の甲に、俺の唇を押しつけた。
ボタンを操作してから胸のまえで機械を握りしめると、勘右衛門は少し腰を浮かし、部屋を見回したりした。
「…?」
「お、おれ……
そうだ、台所の掃除してくる!」
「勘右衛門」
目に見えて慌てふためいている勘右衛門に、どうしたんだという意味で思わず名前を呼んだ。遠ざかろうとするその手を握って引き留めたけど、彼はなぜか、そのせいでますます焦ったらしく振り払おうとした。
でも、くたりと、ソファに、身を投げ出した。
「なんなんだよ」
「なんだよって?」
「…びっくりしただろ、」
なににびっくりしたのだろう。
すると、雲の上にかすかに見える巨人の頭が思い起こされた。
――――巨人の頭とじぶんとのあいだには何千キロかの分厚く確かな質量のある大気があって、その向こうで彼は俺の存在をしっているのかわからないし、もちろんその感情を読み取ることはできない。
「電話の最中に、…よくわからないことしただろ!」
「よくわからないこと」
「おれ、気を取られるとほかになにもできないんだから!」
非常識だよ、びっくりしたじゃないか、とこぼす勘右衛門と俺は目線を合わせることがない。
ふと、じぶんの右肩に勘右衛門の手が置かれたのを感じた。