第7章 おひとつプレゼント/富松
図書室の棚のあいだに立ち、ふと、顔をあげると、部屋にはひとりのくのたまのほか、だれもいなくなっていた。いつも窓は図書委員によって閉ざされているのに、ひとつだけ障子が開き、そばの机に着いているくのたまのその瞳を輝かせていた。光は粒となって睫毛に引っ掛かり、やがて零れる。
くのたまって、泣くのか。目が離せなくなっていると、失礼なことをかんがえたのがバレたみたいに、視線が合った。
「!」
口が開く。
「三年生。中在家委員長がいないからって、やめておいたほうがいいんじゃない」
俺の手には、包み紙がある。
「一年生のしんべヱくんからもらったのかしら」
「なっ」
―――なんでわかるんだ?! と叫びそうになったが、忍術学園はそんなに規模のおおきい組織じゃないんだ。俺が用具委員会で、おなじ委員会のしんべヱがよく南蛮ふうのお菓子を持っていることをしっていたとしても不思議じゃないのかもしれない。もしそうなら、当然の推理なんだろう。
「…金平糖も、飲食なのか」
「そりゃそうよ。飴みたいなもンだし、ほかのお菓子とちがって食べかすをこぼしたりしないけどサ」
すると開いていた本を手にとって、くのたまは腰を上げた。
俺のとなりに立つと、その綴じ本を棚にもどす。
そのとき涼しげな横顔の目元には、さっきの光景が恰もなかったかのように、鮮やかな紅さえ引いてあることに俺は気がついた。たったいま引いたかのように、すこしも滲んでいないんだ。
「ひとつくれたら、おおめに見てあげなくもないのよ」
棚からまだ視線を外さないまま、そんなことをしれっという。
「は?!」
差し出された掌。
その当然というようなようすに、包みを持った俺の手はおもわず動いていた。