第6章 寂しがりの泣きそうな夜/伊賀崎
「あす、」孫兵君が私を見上げた。「また、ここで待っています」
…なんの用かは、すぐにわかった。しかし恐怖だとか、そんなものはないのだった。わたしは部屋にもどると、いつものように眠るだけ。
夢を見た。
格子がわたしの視界と移動を阻む。
でもけっして不快ではなかったのだ。抜け出そうという気も起こらず、初めての囚われという感覚を、楽しんでいた。
でも、結局わたしはどうやってそれを成したのか、格子から抜け出した。
夢というのは掴み得ないもので、どうやって抜け出したかわたしの頭からすっかり消えてしまっている。
格子に阻まれていないわたしは、物足りなくて先程の格子を探し歩いた。すると、だれかの足が、眼前に現れた。そこではじめて、自身のからだがものすごくちいさくなっていることに、わたしは気がついた。夢のなかのわたしはなにもかんがえていない。ただじぶんが虫なのだということを素直に受け入れた。否、受け入れたというより、それが当たりまえで、否、当たりまえとおもうほど気にかけることでもなくて、わたしは―――虫は足の主を見上げた。
孫兵くんだった。
そして虫は、先程の格子にわたしを入れたのは孫兵君だったんだなと思う。孫兵君は虫を手のひらに乗せ、その虫をそっと先程の格子のなかに閉じ込めた。
格子は虫籠だった。