第26章 あたたかくしておやすみ※/サレズケ
昨晩、ズッケェロのやつの胸で眠っていた女性名は、朝日のなか起き上がって、ベッドの上で残りのトローネをかじっていた。
そのアーモンドの粉で白くなった口許を見下ろしながら、オレは熱いドリップコーヒーを渡す。
「昨晩はよく眠ったみてーだな」
「よく覚えていないんだけれど」カップを受け取ると―――きのうオレがこいつに贈った、持ち手が天使の片翼になっているカップだ―――、下ろした女性名の肩から、シュミーズの紐が滑り落ちた。「わたし、結局マリオの相手をしたのかしら」
オレもまたじぶんのカップのコーヒーを口に含むと、首を振った。
「いや、中途半端なとこでおまえが寝ちまうから―――」
そのマリオはいま、くったりとベッドに横たわったままだ。いちばんヘアセットに時間がかかるのに、いちばん最後に起きるやつなのだから。
「―――おれが相手したぜ」
ズッケェロのほうを見ていた女性名は、さっとオレに振り向いた。
うそッ?! と目は語っている。
うそなもんかよ。おれも缶からひとかけら、トローネをぶん取った。
「そう」
しかし早くもコーヒーで落ち着いたらしい女性名は、ふと、思い出したようにつぶやいた。
「それなら、よかったわ」
微笑む女性名は、とても柔くて、ふっくらと白い。