第23章 桃と剪刀/デッドマン吉良
山桜桃の女性名と出会ってから、わたしはもっと信じられない体験をすることになってしまった。はずみがついたとでもいうように、ほかにも花に話しかけられるようになったのだ。待雪草、寒白菊、水仙――――しかも、どの訴えでも、根本には死体が埋まっており、それは女の遺体だというのだった。
犯人像にも、明らかに共通点がある。
「茶か、金の髪」
「珍しい髪の男の子」
「未成年の男」
しかし、たったひとりの少年が、なん人も成人した女を殺して、見つからないうちに遺棄してしまえるものなのだろうか? そうだとしても、とっくに足がついて、少年院を出所しているかもしれない。
「やっぱり、あれ以上のことは必要なかったみたいだな」
その日、地方紙に白骨死体遺棄の事件が載っているのを見て、わたしは山桜桃を再び訪れた。新聞によれば、(左手首以外の)全身の遺体が発見され、失踪していた女性名のものだと身元も判っているらしい。
わたしは掘り返された地面を見下ろしながら、ぼそりという。「女性名の家族は、騙されてもいいから、藁にもすがるおもいで掘り返したんだろう」
あの山桜桃のもとに立っても、もう女性名の囁きは聞こえず、枝には、白っぽい実が膨らもうとしている。
どこかで聞いたことがあるな、有性生殖の生きものはかならず死ぬようにできいて、花さえつけなければ、植物は永久的に生きるのだ、と。
有性生殖に切り換え、果実をつけることは、「死」と、次の世代への交代を意味するというわけだ。
少年の連続殺人は過去の事件だ。わかってはいても、因縁めいたものを感じずにはいられないのだが、それを押し流すように、女性名がこの実をおいてどこへ行ってしまったのか、という疑問が、わたしには溢れてきて、止められない。
決して答えの得られない疑問が。
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花から死体の在処を聞くのは、eat先生の漫画から。『DARK ALICE』という単行本に収録されています
あと、「足がつかない」は吉良さんの幽霊ジョークです( ・ω・ )