第23章 桃と剪刀/デッドマン吉良
「それで…犯人に復讐したいとか」
いつしか辺りには雪が舞い、雲が晴れた空に迫っていた。夕闇にスポットライトは一層白い。――――なぜ、復讐など――――そこに呆気ないつぶやきがひと粒降りた。
「わたしへの依頼にはおおいんだ。幽霊なら法のそとで動くことができる:足がつかない。当然だが。だれも裁けない事件を、だれにも裁かれない存在であるわたしが終わらせてるんだ」
「…かんがえたことがありませんでした」
「珍しいな。それなら、これはたんなる好奇心で訊くんだが…あんたはどうして死んじまったんだ。なぜこんなところに埋められている」
十五年かもっと昔、女性名は当時高校生くらいの少年に殺されたという。
彼女はクリスマスの近い冬の日、亀友デパートで気まぐれかなにかのように目をつけられた。ひとりになったところを少年に弛緩剤を仕込まれて、あっという間に、命は切り裂かれてしまった。
「少年犯罪ってやつか」
一瞬の凶行だったにも拘らず女性名の印象に焼き付いた少年のすがたは、ほかの少年たちとは明かに異質な雰囲気の、小綺麗な身形、亜麻色の頭髪。
品の好い顔立ちは幸せそうに微笑みを湛え、愛していると、刃物は叫んだ――――
女性名はやがてこういった。
「復讐までは頼みません。ひとはいずれ死にます、わたしの場合それが殺人だったというだけなのです。それよりわたしは、家族の心に引っ掛かった問題を解いてあげたいのです。わたしを見つけなければ、きっと彼らは過去から自由になれないでしょう」
わたしはそれから住所の家を尋ね、インターホンに出た老人にただ伝言を伝えた。今回の仕事は、たったそれだけだった。