第21章 夜伽の男/アヴドゥル
女性名が駆け寄って来たが、とくに用件をいわないので、ひとまず、魔術師の赤に抱きあげさせてみた。
彼女がにっこりするのを見ると、おそらく抱いてほしかっただけなのだろう。
こんなとき、キスをしたり、星の話をしたり、頼まれていないことをすると機嫌を損ねてしまう。
どこまでも要望を満たしてあげようと従順に付き合うほかにないのだ。いつでも。
しかしふと、女性名からスタンドの頬に唇を寄せてきた。当然なんの感触もないので、彼女はまじまじと、それがあるはずの空間を見つめる。
「きみからは触れないんだ」
とはいえ、魔術師の赤の鋭い嘴で啄むわけにもいかない。
おれはみずから、魔術師の赤の腕のなかでもはや眠そうにしている女性名にキスされに行くことにした。
「おれなら、噛むなり引っ掻くなりすきにしてもらえる」
女性名はおれのスタンドに、自身のスタンドで触れたりすることはできないし、それどころか、ヴィジョンがはっきり見えているわけでもない。だから彼女にとって魔術師の赤に持ち上げられるのは、宙に浮いたようにおもえることだろう。
なに者かに抱きかかえられている確かな気配があったとしても、目に見えることは絶大だから。
しかし、いま女性名はこうして、うとうとしてさえいるのだからかなわない!
おれは女性名を寝室に連れてゆく。
「きみが教えてくれたペルシア語の詩を聞かせてやろう…」
「お伽には慣れたものね」
「きみは男を召し使いにしてしまう名人だ」
しかし本人は身に覚えがなさそうだ。「わたしは文学を教えただけよ…」
近世ペルシアの詩―――栄華のペルシア文学、カリグラフィ、ちいさな学者である彼女が教えてくれたことはそれだけではない、彼女は女に身を捧げる男の喜びを、自身をすべてさらけ出すことで、教えてくれたのだ。
☆
それだけ!