第16章 1人で遊ぶ/2人で遊ぶ/間田
空き教室のベランダでやさぐれていると、わけもなく、いずれわたしも煙草を吸うことがあるのだろうかと、おもえた。
「なにしてンの」
すると教室内から、声を掛けられ、わたしは怠いからだを起こしてみる。漫画を携えた、改造学ランの、不良ともオタクともつかない男子がひとり。上履きの色は、じぶんとおなじ3年生を示している。
こいつはここにすでになん度も来ているのだ。わたしはすぐさまそう察した。ひとりになりたくてニッチを探しても、かならずそこには上手の者が、すでに踏み込んでしまっているあとなのだから。
「…あんたとおなじことよ」うわずりながらも答える。
「…フケてる」
「わかってんなら訊かないで」
「でも、そんなふうにうずくまってるやつがいたら、ふつー声をかけるとおもうけど」
…そーですね
「意外だね。あんた、泣いてるやつに声かけたりするんだ」
「そりゃ…まア……だれにでも、いいところくらい、ひとつやふたつ、あるってことだろ」
「…」
それは無責任な、しったようなことばだった。けれど、怒るに怒れない。彼の絆創膏のある顔は長い前髪の奥に隠れており、いかにもふだんひとに声をかけたり、まして慰めたりしないであろう容姿だったのだから。
「…じゃあさ…あいつも」
わたしは母のことをおもった。彼女が連れてきた煙草臭い男のことを。
「あの男ノータリンのクソカスだと、あたしはおもうんだ…」
「 … 」
「だけど、あんたのいうことがほんとなら、あるんだろうね」
「あー、いまのは、うそだよ。あんたにはいいところがひとつもないから」
気まずげに撤回すると、彼はなぜか持っていた少年漫画誌のひとつを、ついと差し出してくれた。わたしはそれを、だまって受け取る。ふたりはつぎの授業まで、ただサンデーとジャンプを端から端まで、読んでいた。
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アニメで花京院を抱えた承太郎さんが発するまで、「フケる」という単語を聞いたことがなかったです