第14章 記憶の亡霊/間田
「女性名、入るよ。ねえ、どこかでおれのピアス見なかった」
放課後、おれはたびたびそうするように、市内の女性名のマンションを訪れ、リビングの床を見渡した。
鞄を下ろし、おれは返事を待つまえに、ちいさな丸テーブルのうえに目を留める。
そこには空のちいさな箱が4つと、ガラスコップ、白い粉のついた乳鉢が、まるで食事のあと食器を片づけなかったかのような、平気なようすで置かれていたのだ。
「なんだ…」
箱にはバスや大型客船のイラストがあり、「乗り物酔いの予防と緩和に」という文句が表示されている。乳鉢には、錠剤の欠片が「食べ残されていた」。
おれは足早に、部屋中の扉を開け放して回った。トイレや物置、クローゼット、そして――――
「女性名、いるの」
脱衣室で、磨りガラスをまえに、立ち尽くした。声はおおきくなる、からだが動かなくなってしまうまえに、おのれを衝き動かしたかったのかもしれない。
おれは、磨りガラスの扉を開け、浴室に向き合った。
ここに立ち尽くす高校生に、浴室に現れたその光景を判断する力はない。
剰え、いま浴槽で目を瞑り、力なく沈んでいる女性名が、いままでどんなおもいで生活していたのかなどということもまた、しるすべはない。
女性名の髪の毛先が揺蕩う。すこしも上気していない、白い陶器のような肌。そのすがたは、艶かしい球体関節人形のようだが、静謐さを湛えてもいた。白いタイルの浴室は、フィクションに見るような、赤い飛沫などひとつもなかったから。
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ピアスホールは女性名に開けてもらったという裏設定があったりします
間田さんはファーストピアスなう。セカンドピアスも女性名にすでに選んでもらっていましたが、どこかで紛失してしまったようです