第14章 記憶の亡霊/間田
浴槽に背を向け、おれはリビングへともどる。女性名を助け起こしたり、救急車を喚んだりすることはない。部屋を見回し、ソファにあったおおきな縫いぐるみを浴室に持ち込んで、女性名の頭に、ぽんと触れさせた。
縫いぐるみにオーラが立ち上る。
そいつは浴槽のわきで脚をすらりと伸ばし、すぐにおれの手を離れた。
白い背中が視界を塞ぐ。
そしてサーフィスは、女のすがたでそこにしゃんと起立したのだった。
「あら?」
そいつは女性名とすこしも変わらない声を出し、白い肩越しにおれを振り返った。腰を捻って、くるくると自身の裸体を確認している。じぶんが「死んだ」記憶はあったのに、こうして異常もないすがたで立っていることが呑み込めないのかもしれない。
「えっ…」おれはその光景に目を見張る。一歩退き、他人ごとのように声を漏らした。
おれはなぜスタンドを出したのだったか、なぜ死んだはずの人間に縫いぐるみを触れさせたいとおもったのか、おのれの行動が、リビングのテーブルやこの浴室を見たときの混乱と相俟って、思考は追いつけないでいた。
「……死んだ人間も、コピーできるの?」
サーフィスはそのことばに、ふと本体を振り返った。
「死んでないのかも、しれないね」