第10章 光る町/デッドマン吉良
「―――でも、アンタみたいにきれいな幽霊は、はじめて見たよ」
そのことばに、わたしは、この緑地公園のそとで帰宅ラッシュに揉まれているであろう幽霊たちを想像した。
電柱などに隠れ損ねてひとにぶつかり、手足を持っていかれる、無様な亡者。
そうでなくとも、死んだ瞬間のままなのか、内臓や骨を醜く晒している者も珍しくないのに。
彼らにとって、音楽は無意味だ。美しい景色も、ゆったりした時間も、必要ない。なにも感じないからだ。「彼らは」だ―――わたしは、その反対だ。
なんの不安もなく音楽に心酔すること、それ以上の大切なものなど、あり得ない。
「デヴィッド・ボウイに似てるよ。個性的でかっこいい。生きてたとき、そういわれなかった?」
「…」
わたしは一応、かんがえてみた。しかし手掛かりも答えも、どこからも返ってくることはない。いつものとおりだ。わたしの問いに、答えは返らない。
「残念だが」わたしは溜息混じりにいう。「覚えていない。生前のできごとは、なにもわからないんだ」
「…そんなこともあるんだな」
少女はゆっくりしゃべる。ことばを選んでいるようだった。野性動物がいやがって去ってしまわないかどうか、慎重にようすをうかがっているという感じだ。
彼女はその動物を珍しがって追い回すつもりはないし、ましてや掴みかかったりすることはないと、わたしにはわかっていた。
彼女は女性名と名乗り、わたしにじぶんのなまえを覚えているのかと尋ねた。わたしは、そのなまえだけを自信をもって答える。
彼女はリュートをやるうち幽霊が見えるようになったという。詳しくは、リュートをやるようになったころ、周囲に「見える」ひとが増えはじめ、なぜかその波長のようなものの影響を受けてしまった、ということだそうだ。