第10章 光る町/デッドマン吉良
仕事が片づくと、地平の向こうの空は金色に輝いていた。あの寂しい寺の尼僧のところへ報告へ行くまえに、わたしはふと、見かけたリュートを演奏している女のもとに立ち止まってみた。
緑地公園の花壇だ。その縁石に女は腰をおろし、鍔の広い麦わら帽子の頭を垂れて、琵琶のように丸い楽器を爪弾いていたのだ。
金色の光を背負うその女の顔は、よく見えない。
わたしは彼女の足元に座って、リュートを鑑賞することにした。
彼女からすこし離れて立っていては、わたしのすがたを見ることができないだれかが通るかもしれないし、演奏に惹かれたひとびとが集まってくるかもしれない。生者に接触する心配をせず、ゆったり鑑賞できるのは、彼女のすぐそばだけだった。―――
そして、すぐに演奏に集中したのだ。演奏のさきがわたしにあらかじめ明らかにされているかのように、からだが自然と音楽に馴染んだ。
曲は二転三転と展開して、自身がどれだけ技巧を盛り込めるのか、彼女は楽しんでいる。
曲がゆき着くところまでゆくと、彼女は静かに弦から指を離し、わたしは自然と拍手をした。だれにも聞こえない拍手を、しかし、必要があったから。
「…センキュー」
そのつぶやきに、わたしは彼女を見上げた。
だれのためでもない拍手は、彼女にも、聞こえないはずだったのに。
「ただの練習だったけど、うれしいよ」
「…見えていたのか」
うつむいていた彼女は、サウンドホールの繊細な透かし彫りを見ていたが、こちらに視線を返す。恐ろしがる気持はおろか、その目には好奇の色もなく、あの尼のそれに似ていたが、もっと親しげだった。
また、わたしはそのとき、麦わらの奥の女が、とても若いことに気がついた。