第8章 永劫のほし/ジョセフ
「ああ、あのお客さんといっしょに来たんだ」
「ええ…いまの曲、『Dance to your Daddy』でしょ、とても上手ね」
「そう…かな」
「でも、どうしてそんなに、寂しげに弾くの」
「そりゃおかしいな…音階をまちがえてるかも。ぼくはおばあちゃんの楽譜をあんまり見ないから」
おそらく、そういった問題ではない…いまの彼は長調でさえも寂しげに弾くことができるだろうと、わたしはなんとなくわかっていた。
「ねえ、邪魔じゃなければ、つづけてよ」
「べつに、いいけど」
わたしは速やかに音楽室へ入り、オルガンの付いた壁の向かいにある、ドラムセットの椅子に腰掛け、そのときたちまち彼の指が滑り出すのを見た。
I am bound for California,
わたしは、始まったべつの民謡の歌詞を、胸のなかで追う。
So fare thee well, my own true love,
For when I return, united we will be
It's not the leaving of Liverpool that grieves me,
But my darling when I think of thee
舟唄を弾きながら、彼の指が光りだしたように見えた。
オルガンのうえに活けてあった、ガラスの花瓶の水まで輝いて見える。
「あなたは…」
「ジョジョ」
「―――ジョジョはお父さんを待っているのね」
「…そっちはどうなのさ」
「うちにもお父さんがいない。兵役に行ったきり」
「そうだったの……でもぼくの場合はすこしちがう。父親代りのスピードワゴンはいまアメリカへ仕事に行っているけれど、また帰って来る。おばあちゃんとぼくをほんとうに心配しているんだから」
母が、そのスピードワゴンというひとの留守を狙ってジョースター家にやって来たようで、わたしはいやな気分になる。
「それにぼくは待っているだけじゃない……助けられる」
しかしジョジョは、ことばとは裏腹に、まったく誇らしげではない顔で鍵盤に頭を垂れた。
もしそれがじっさいにできるなら、ジョジョはここで父親を想いオルガンを弾いているだけではないのだろう。