第7章 🚹花盗人の指先/シーザー
「相手しろ」
「そんな…ぼくは」
「おれはおまえに保護されに来たんじゃあねえんだよ。脅迫してるんだ」
相手の細い両腕を掴み、さっきのケンカの興奮が脳裡を突く。
恐怖に戦く表情、血の鮮烈さ、酩酊。
体力は回復したわけではないが、おれにはギャングにも目をつけられる凄みがある。十分だ。いかがわしいことをしようとするとき、拘束する腕力はいらない。恐がらせ、足を竦めさせればいい。
「…」
しかし、すこし相手の襟を緩めてやっただけで、おれはそれどころではなくなるほど、気味わるいものに出くわしたのだった。
背筋にぞわりとなにかが這い、視線が拘束される感覚。
「マンマは、」このマンションの持主のことを指して彼はいった。「この部屋に似合う白猫がほしかったんだって…」
なんの疑問もなくあっさりと、襟のしたから現れた錠つきの首輪を撫でながら。
男性名は「マンマ」の息子ではなかった。
男性名には身寄りがない。ダンスやピアノなど教養は盛り場で学びとり、女たちの相手をしていたが、優雅な振る舞いと美貌でいまの「マンマ」に一目惚れされ、一年ほどまえこの部屋に住むようになったらしい。
いまでは彼女の養子に入れられることになっており、公にかわいがられているようだ。
もとは愛人だったとはいえ、養子になろうという者に首輪などつけるとは。
その首輪は厚く太い黒革で、銀色の錠さえさがっている。
あきらかにファッションのアクセサリーではないのだった。
留守にしているあいだの愛情表現としてのお守りなら、効果はあったようだな。
その日以来、おれは毎日貧民街から出掛けて、繁華街のそばの男性名の部屋を訪れた。繁華街から遠くへ出てはいけないという、マンマとの約束を守る彼のために土産を携え、あの白い部屋にゆくのだ。建築の大理石を活かし、白を基調に調度の設えられたあの部屋。
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捨て猫と飼い猫のストーリーをかきたかったけど貧民丸のキャラが掴めず撃沈しました