第7章 🚹花盗人の指先/シーザー
その曇り空の日、繁華街を歩いていると、路地に見え隠れするものがあった。
おれに後ろ暗い視線を送る男が、ひとり。
うっとおしいからのしてやろうと路地に入る。
するとそいつの顔には見覚えがあった、おれがこのまえ貧民街で手を出したギャングの仲間だ。
ひとりではなかった。
おれは路地で三人のゴロツキに囲まれ、圧倒的に不利だったが…最初に振りかぶってきたやつのバールを奪うことができ、数分後には三人とも、そいつらの血や皮膚、割れた周囲の窓ガラスが散らばる地面に倒れ伏していた。
男性名がおれを目撃したのは、まさにそのときだ。
曇天の、いつものようにゴミの散乱した繁華街の路地裏で、三人のゴロツキを見下ろし返り血に染まっている男。
路地の奥から偶然現れた若い男が、その光景をまえに息をのみ、立ち尽くしている。
おれもまたそいつを見つめたまま、時が止まったように身動きできずにいた。
その、堅気のようにきちんとした身なりの男は、しかし極端に色素が薄く、青みがかってさえみえるような髪をしていて、質量というもののない、夢まぼろしのような佇まいだった。
その顔は中性的で、こんな男が実在するものかと、目を疑うほどに美しい。
彼は震えながらも、救急車を喚ぶといいだし、たいしておれは足がつくからいやだというと、それならじぶんの家で手当てさせてくれと、三人を救急車に任せておれひとりを引っ張っていったのだった。
彼はひょろいが、成人男性ひとりをのせるほどの体力は、じつはおれにはもはや残されてはいなかった。ボロボロの服に浴びた血も、返り血だけではなかったのだ。
引っ張っられるまま、彼のマンションに行き、シャワーを浴びるようにいわれた。
そして、つまり彼を襲った。
彼のことを、おれを助けるふりをしたギャングの仲間だとおもったからでも、この洗練された金持ちの住む部屋の金品を強奪したかったからでもない。
おれは彼のからだが、欲しくなった。
シャワーのとき、自身が勃ち上がっていることに気がついたからだ。
激しいケンカのあと、たまに硬くなってしまうことがある。