第36章 私立リアリン学園!14時間目~ロベール~
「あの日………剣と剣のぶつかり合う金属音が、すぐそばで聞こえていた。俺をかばって命を落とした人がいる。忘れられない………いや、忘れてはいけないんだ」
目の前にいるのに、私ではない、どこか、まったく違う遠いところを見つめている。その瞳には、深い深い悲しみの色がはっきりと見てとれる。血の気の引いた青白い顔色。薄く開かれた唇は、微かに震えている。
どんな思いで話してくれたのだろう。今まで抱え続けてきた過去―――。
こんなに重い秘密だなんて、想像もつかなかった。
時折見せるロベール先生の寂しげな眼差しの理由を知りたいと、単純に思っただけだったのに―――申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
何か言ってあげたい。だけど、同情も励ましもしたくない。平和な国に生まれ育った私が、言えることなんて、薄っぺらいだけだ。
目の奥が熱くなってくる………ダメだ、私が泣いては、ダメ。
ギュッと奥歯を噛みしめて堪える。
居心地の悪い沈黙を破るように、ロベール先生が小さく息を吐く。
「あまり時間もないから、周辺諸国の歴史を学ぶなら、ウィスタリアとシュタインに絞った方が効率がいいよ」
「え」
あ、まただ。
顔を上げると、そこには、何事もなかったかのような.、いつもの笑顔があった。
軽く頭を振り、その笑顔にならって口角を上げ、平常心を取り繕う。
「………ありがとうございます。そうします」
「じゃあ、また明日よろしくね」
「はい」
ペコリと頭を下げて、静かに美術室を後にした。
そうするしかなかった。私には、これ以上聞く権利も、受け止める勇気もないのだから………。