第4章 ピアノレッスン~シド~
~そして、ピアノレッスン~
久しぶりのピアノ室。
入るまで、少しためらったけど。
ポーン………。
人差し指で軽く鍵盤を押すと、静かな部屋によく響く。
ピアノの前に座るとふうっと息を吐いて………静かに、ゆっくりとピアノを弾き始める。
最初は、力強く、自信に溢れ、恐れを知らず………何をもよせつけない、旋律。
寂しさも悲しみも、どこかに置いてきたかのような、無機質な冷たい調べ。
ずっと、このまま続くのだろうかと思うほどに、繰り返される。
自由で、気ままで。
失くすものなどない、だから、強くなれる。
強くありたい―――。
いつのまにか、その強さは本物となり、傲慢で、おごり高ぶり………。
1人で生きていく事に、なんのためらいも持たなくなった―――。
そして。
曲調が変わる。
なんだろう―――。
例えるなら、それは、花畑で。
たった一輪の綺麗な花を見つけたかのような、嬉しさと驚き。
そして………戸惑い。
触れてみようと近づいてみたり、けれど、触れてはいけないと思い直して離れてみたり。
心躍るのに、そんな思いをひたすらに隠して………。
思い起こされる。
辛い過去を。
手に入れたいと思いながらも、同時によぎる。
失った時にやって来るだろう、寂しさと孤独感を―――。
だから、近づかない。
むしろ、遠ざけようと………。
でも、惹かれる。
目が離せない。
―――どうしても、諦められないのだ。
やがて、旋律が、ガラリと変わる。
気づいた。
いや、今まで気づかないふりをしていただけで。
今、やっと向き合う決心をした。
自分の人生に、これ以上大事なものはないと実感する。
こんなにも愛おしく、こんなにも大きな存在だということに。
後の事も、先の事も、これまでの事も………もう、どうでもよくなるほどに。
手放せない。
大事な、人。
愛してる。
愛してる。
シドは、私を、愛してる―――。