第4章 ピアノレッスン~シド~
シドは、ベッドに寝転がり、あの日をゆっくりと振り返っていた。
あの日―――。
早朝、やっと仕事を終え、隠れ家に戻った。
それから昼まで寝て、遅い昼食を取り、ジャスを散歩に連れて行った。
最近は仕事に追われて、ゆっくり寝る時間もなかったのだが。
ジルとの約束の時間までに、久しぶりにのんびり過ごせたのだ。
そして、夕刻。
シドは、ジルに頼まれていた仕事の報告に城へ行き、部屋を出たちょうどその時、ルイに会った。
その時まで、マインとルイがピアノの練習をしている事など、すっかり忘れていた。
そこでルイの顔を見て、思い出したくらいだ。
それくらい、関心のない事だった。
シドは、視線を外しながらも、向こうからまっすぐに歩いて来るルイに、声をかけたのだ。
あの時、ルイの奴、おかしな事ばかり言ってやがったな………。
『シドに、この曲を弾いてほしいって、マインが言うのが………どうしてか、わかった気がする』
俺に弾いてほしいって………?
マインが言うのが、どうしてか、わかった気がする、だと?
………ルイは、何を言いたかったんだ?
そして………楽譜を押しつけられた。
手に取った楽譜に目を落とす。
なんだ、これ。
細けえ楽譜。
しかも、長え。
………知らねえ曲だな。
誰かが、書いたのか。
誰だ、こんなしちめんどくせえ曲、書きやがったの。
断っておいて、正解だったな。
楽譜を見ながら、そんな事を思っていた。