第4章 ピアノレッスン~シド~
「せっかく作ってくれたのに………残念だけど、シドはあの曲を弾いてない、し………聴いても、いない………はず………」
私は、だんだんと言葉に詰まっていく。
………そう言いながら、何かが、頭をよぎっていくのだ。
あの日―――ピアノ室に入って来た、シド。
『これは、何だ』
楽譜を手にして、そう言ったのだ。
『これは、何だ』
『これは、何だ』
「シドは、あの曲を………聴いてない。楽譜を、持っては、いた、けど………」
私は、カクカクと震える膝を、両の手で抑える。
「………楽譜を読んだだけでも、ロイドくらいのレベルなら、メロディーが思い浮かぶはず。きっと、視覚も刺激されるはずだから」
そんな………そんな事って………!
「じゃ、あれは………あの時の事は………媚薬のせいって事?」
私は、つい、思っていた言葉を、声に出していた。
「この曲のせいでロイドとこじれたのなら、俺が謝らないとね」
「ううん………謝る必要ないよ、モー君は曲を、書いただけ、で………」
曲のせいなの?
媚薬が、効いた?
でも、それって、つまり………私を、好きって事?
―――本当に?
シドなら、好きでもない相手とでも、あんな事を平気ですると思ってた。
私を、面白半分に抱いただけだって………そう思ってた。
でも、違うのなら―――。