第4章 ピアノレッスン~シド~
私は、首を傾げる。
「だって、私は、何度もこの曲弾いてるけど………なんにも感じないよ?」
「君は、女性だから」
「女性だからってことは、男の人には、わかるって事?じゃあ………ルイ、は?」
ほぼ、毎日のように、ルイと練習してきたのだ。
けれど、変わった事なんてなかった。
―――あっ、ううん、そういえば、あの日………。
ルイが練習に遅れて来て、そして言ったのだ。
『レッスンは、もうおしまいにしよう』
「ルイが………あ、音楽祭では、ルイと弾く事になって………それで、ずっと一緒に弾いてきたのに、急に2人で練習しない方がいいって言い出したのね。だから、それっきり練習してなくて………」
「ルイと?そうか。多分、何度も弾いてるうちに、ルイは感じ取ったんだろうね」
「………っ、感じ取るって何を?ねえ、この曲を聴いたら、どうなっちゃうの?」
「それ、俺に聞く?」
急に、モー君の真っ白い頬が、ほんのりと赤みを増す。
え………もしかして、照れて、る?
ここで、照れるって、あり?
「ええっと………その、だって、作った本人でしょ?」
私は、そんなモー君の思いがけない表情にドキマギしながら、言う。
「………好きな相手を求めずには、いられなくなる」
好きな相手を求めずには、いられなくなる―――!?
その言葉が、私の頭の中をグルグルと駆け巡る。
―――そんな事って、ある?
「えっ、だって、だって!そんな曲を音楽祭で演奏しようとしてたんだよ?もしかしたら、会場中大パニックになるとこだったかもしれないのに!」
私は、声を荒げる。
「その、だから………何度も言ってるけど、これは、この曲は、ロイド自身なんだ。俺は、ロイドを曲にした。君に聴かせたくて。そして、ロイドにも」
「―――シドのための、曲って事?」
「そう。だから、この媚薬は、ロイドにしか効かない。2人が、想いを打ち明け合うきっかけになればと思ったから」
―――シドにしか、効かないんだ………。