第4章 ピアノレッスン~シド~
「嘘、だぁ」
―――シドが、私を好き?
そんなの、信じられないけど………。
「昔、大切な人を亡くして以来、ロイドは人を寄せつけなくなってね。けれど、君と出逢ってからのロイドは、昔の彼を思い起こさせる」
大切な人を、亡くした?
そんな話、知らなかった………。
「いつだって、ロイドが、マインの事、すごく大切に想ってるのが伝わってくるよ」
………。
私は不思議で仕方なかった。
私を、大切に?
だって………大切な人に、あんなひどい事、する?
「君を遠ざけようとするのは、また、失うのが、怖いからだと思う」
―――大事なものを持たない。
そうすれば、失う事もない。
悲しくなる事もない。
そうか、そういう原理なのか。
………でも、それって、寂しい。
「変わってほしかった。君に、ロイドを変えてほしかった。だから、曲を書いた」
「えっと………話が結びつかないんだけど」
モー君の真剣な瞳を見つめながら、私は、まだ彼の言わんとしている事がまったく理解できなくて。
そして。
衝撃的な一言―――。
「この曲は、媚薬なんだ」
………びやく?
唐突に発せられたその単語に、戸惑う。
頭の中で、漢字変換。
「媚薬って………え?だって、媚薬って、薬みたいな………飲むものじゃないの?」
「一般的なものはそうだね。嗅覚で感じる媚薬が、香水やフェロモン。これは、聴覚を刺激する媚薬なんだ」
―――聴覚を刺激する、媚薬………?
そう言われても、理解できなくて………。