第4章 ピアノレッスン~シド~
と、背後から、
「マイン」
呼ばれて、振り向く。
月の光に照らされて銀色に輝き、揺れる髪。
すみれ色の、濃い瞳。
「………モー君」
私は、ほっとして、彼に近づく。
「君が、ホールを出て行くのが見えたから」
「あれ?私は、モー君の事追いかけて………」
「これ」
モー君は、両の手に持っている紙コップの一つを私に差し出す。
あ、飲み物を買ってたんだ………。
どこかに売店があったのだろう。見落としてた。
「ありがと」
「オレンジジュースでよかった?」
「うん………でも、モー君は何飲んでるの?」
「これ?トマトジュース」
「トマトジュースって………」
「こっちが、いい?」
「あ、ううん!オレンジで大丈夫」
私はモー君からカップを受け取ると、ゆっくりと歩き出す彼について行く。
中庭に入ると、ベンチがあり、そこに並んで腰掛ける。
オレンジジュースを一口、コクリと飲んで。
―――会えてよかった。
私は、モー君に伝える事がある。謝らなければいけない事も、お礼の言葉も………。
何から伝えよう………そう、考えを巡らせていると、先にモー君が言う。
「いい演奏だったよ」
「あの!ごめんね、モー君の曲を、演奏できなくて」
私は、一番伝えたかった事を口にした。
「弾いてほしいとは思ってたけど、頼んでは、いないから。マインは、謝る必要ない」
「え………あ、そっか」
確かに。
曲目は指定されていなかった。
あの日以来、ルイと練習をしなくなって―――。
それでも、時は過ぎて演奏会は着実に近づいていて。
あの曲は、まだ人前で弾けるほどの出来ではなかったので、急遽別の曲を選び直す事になった。
私はずっとふさぎ込んでいたので、ルイも私も弾ける、無難な曲が選ばれて。
ぶっつけ本番で弾く事となったのだ。
二台のピアノでの二重奏に変更して、私が主となり、ルイはフォローに徹してくれた。
そして、なんとか、形になる演奏を披露する事ができたのだ。