第4章 ピアノレッスン~シド~
演奏を終えた瞬間、私は満足感でいっぱいだった。
いい演奏ができた―――。
そう、心から思えた。
私達は、歓声に応えるように深々と何度もお辞儀をした。
何度目かのお辞儀の後、顔を上げた時に不意に、視線が合う。
会場の、一番奥に立ち尽くす、その人―――。
………っ、モー君だ!
早る気持ちを抑え、優雅な仕草で会場の端の方々にもお辞儀をし、もう一度顔を上げたその時には。
彼の姿は、なかった―――。
「マイン様、ルイ様、お疲れ様。すっごくいい演奏だったよ」
ステージの袖に戻ると、ユーリが満面の笑顔で迎えてくれる。
「うん、ありがとう………」
視線を彷徨わせながら、気もそぞろで、お礼を言う。
―――どうしよう。
この後は、来賓席で鑑賞する事になっている。
ユーリが誘導してくれるので、後について歩き出す。
けれど―――。
「あ、あの、ユーリ………私………」
「一番左奥のドアから出て行ったよ」
私の言わんとする事を理解してくれたユーリが、耳元で囁くように告げる。
「―――っ!」
すぐ横にあるドアから、静かに会場を出る。
足早に廊下を行き、ロビーに出る。
演奏会が始まっているからか、ロビーには誰もいない。
………帰っちゃったのかな。
あまり不自然にならないように辺りを見渡して―――。
それから、受付の方々に会釈をして、ホールを出る。
夜風が、ひんやりと頬を撫でる。
それは、会場の熱気と高揚感で火照った身体に、心地よく染み入る。
階段をゆっくりと降りて、見回す。
約束をしていたわけじゃないから、仕方ないのだけど………。
どうしようか迷いながらも、中庭の方へと足を向ける。