第29章 私立リアリン学園!11時間目~イケヴァン・アーサー~
「明日は、待ちに待った合唱コンクールだね。審査員の中に、マインの名前がなかったのは何故だい?」
私の斜め横の席に腰掛けながら、伯爵が、ゆったりとした口調で聞いてきた。
「私は、指導の立場でしたので。それに、全クラスを担当したわけじゃないから不公平になってしまうので審査員には、なれないんです」
「えー、俺、マインと一緒がよかった」
「アーサーも審査員なの?」
「そ。ちなみに伯爵が、審査員長ね。隣りにおいでよー。音楽会の時みたいにさ」
「そういうわけにはいかないよ。私は、教員席にいるから」
「んー、残念」
「楽器での演奏もいいけど、声楽は更に興味深い。学生は本当に無限の可能性を秘めているね」
そう話す伯爵の目は生き生きと輝いていて、音楽好きなことが伝わってくる。音楽会の時も、熱心に演奏を聴いていたもんね。
「伯爵~、これ以上、手広げないで欲しいんだけど。そのうち破産しちゃうよ?」
アーサーが苦笑する。
「………?」
「こないだの音楽会の出資も、大半は伯爵だからね。この人、金に糸目つけないからさー」
え………あの豪華な音楽会の大半って?それって、いくら!?
『金持ちの道楽の力でもなんでも構わない。結局ものを言うのは、お金だから。俺たちは、それを利用するしかない』そう言っていた、ルイ。
伯爵は、違う。金持ちの道楽なんかじゃない。この人は、芸術を理解したうえで、学生の未来のために援助している。こんなふうに、真剣に向き合ってくれている人もいる。
それは、お金があるからできること。
でも、お金を持ってても、他の人のために使うことって少ないはず。伯爵って相当、慈悲深いんだろうね。